#4 老人は死んでください国のため 宮内可静

今日の川柳
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PLAN75

PLAN75 という映画をみた。
詳細は書かないが、国の政策で75歳以上の老人は自分の意志で「死ぬこと」を選べるようになった世界をドラマ化している。
作品としての出来はいまふたつくらいなのだけど、倍賞千恵子の高齢者の演技は上手いし(当たり前だが)、死を選択するしかない高齢者の現実はリアルに伝わってくる。

ドラマ本線と関係のないエピソードをひとつ話すと、公園のベンチを排除アートにするため器具の選定をするシーンがある。セーフティーネットである公園のベンチを排除アートにする予算はあっても、無職の高齢者がギリギリ暮らせる環境を保障する予算はこの国にはない。ということを暗示させるシーンであった。

老人が生きることを選択できない社会は、そこまで来ているのではないか。

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老人は死んでください

句について。

この句が最初に登場したのは1997年12月、作者の宮内可静さんは78歳だったという。
なので、若者が老人に対して書いた川柳ではない。
老人が(自分を含む)老人に向けて詠んだ川柳だ。

当時は賛否両論で騒然だったと樋口由紀子さんが金曜日の川柳で書いている。

実は高齢者の自殺は他の年代に比べても多い。
二十代も三十代も四十代も多いが景気が良くなって経済的に潤ってくると減る。
だから景気の悪い現在は危険なのだけど。
しかし七十代は他の年代ほど景気の影響を受けにくい。
世の中がどうあろうと一定数の高齢者は常に死を選ぶ傾向があるのだ。
その理由は「迷惑をかけたくない」である。

そう考えたとき、この句は宮内さんの内面から湧いてきた自分の声に聞こえやしないか。

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国のため

以前に比べて「国益」という言葉がまかりとおるようになった。

国益を守るために防衛費を2倍に増やさなければならないし、消費税を減税するなら年金財源は3割カットしなくてはならなくなる、なんて論法が堂々と公共電波に乗る。

(ウクライナではない)ロシアを見れば国益を守るため国民に何をさせるかわかる。
人殺しをさせ拒否した人間を処罰しているのだ。
そしてロシアの国民は戦後十年は貧困に苦しむといわれている。

国のために働くとはいずれそういうことでもあるよ、と理解していたほうがいい。

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ふたたび句に戻る

この句が発表されてから25年経った。

PLAN75を見るように、「国の制度で老人が自ら死を選ぶことができる」というフィクションを見ても多くの人は驚かなくなった。賛否両論で騒然など間違ってもしない。そもそも「迷惑をかけないように」自ら死を選んできた老人も少なくなかったのだ。

そして、好むと好まざるとにかかわらず

あと十年もすると、本当に国主導で安楽死の選択ができる国になるだろう。
選択はマイナンバーカードに登録されるだろう。
マイナポイントも付くだろう。

それを予感していたこの句、自分の人生において
今後何度もフラッシュバックのように繰り返されるのだ。

  老人は死んでください国のため 宮内可静 (初出誌:オール川柳)

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