#3 お別れに光の缶詰を開ける   松岡瑞枝

今日の川柳
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3回目。

昨年の9月に退職した

コロナ禍もあるだろうが、33年務めた会社を去るのはあっけないものであった

OB会の入会とかも断ったので前職とのしがらみはすっぱりと切れた(切った)

コロナが落ち着いたら飲もう、といって別れた同僚も

わからないことがあったら電話していいですか、といった後輩も

会社抜きにして手伝ってほしいことがあるんだけど、といってくれた取引先も

見事なまでに誰からも電話はかかってこなかった

これが自分の不徳といたすところなのか

人間なんてラララララララーラー なのかはわからない

半年後

以前自分が使っていた仕事用の電話番号から

友達になりましょう 

というLINEが届いた

いっしゅん ??? となったが すぐ納得がいった

リセットしてから半年ほどほとぼりを冷ました番号が

持ち主を変えて復活したのである

紛失に備えて個人のスマートフォンにも仕事用の番号を登録しておいたので

LINEがそれに反応して通知してくれたのだろう

まったく困った機能である

少し考えてから

仕事用の電話番号を消した

ついでに、同僚、後輩、取引先といった前職関連の番号も全部消した

ついでのついでに、退職前から使っていたスマートフォンのカバーも取り替えた

退職して半年

ようやくお別れのとき

光の缶詰を開けるときが来たのだと思った

光の缶詰を開けると

過去が消えて自分も別なものになってしまうのだろう

見えていたものが見えなくなってしまうのだろう

光の缶詰だからね

だから普通は開けない

開けない限りはあなたとわたしの関係は維持される

でも 缶詰を受け取ってしまった時点で

あなたとわたしは別れることになっていたのである

だって

光を見たいじゃないですか

しっかり 目を開けて

お別れに光の缶詰を開ける   松岡瑞枝 (句集『光の缶詰』(編集工房・円、2001年))

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