UnsplashのWEB AGENCYが撮影した写真
さみしい夜の句会報 第204号(2025.1.12-2025.1.19)
第204号の参加者は56名でした。ありがとうございました。参加された方の1作品以上を掲載しました。掲載のない方、誤字脱字等ありましたらDMにてご指摘下さい。投句はテキストにてお願いします。テキスト以外の投句は週報に反映しませんのでご注意願います。
川柳に限らず人は居心地の良いものを見つけるとそれにしか触れなくなります。ネット川柳で居場所を見つけた人はそれ以上世界を広げなくなるし所属柳社、住居地域の中でしか創作活動しない人はたくさんおられます。人にはいろいろな制約がありますから行動は無理でも、作品を読むことは自由なので枠組みに囚われずできるだけいろいろなところから発信されている川柳を読んで欲しいと思います。
◆ 参加者(56名)
アリタ別館、水の眠り、季川詩音、西沢葉火、五月雨まいまい、牛田悠貴、しまねこくん、涼閑、笛地静恵、片羽雲雀、何となく短歌、輪井ゆう、星野響、汐田大輝、人見佐一、川瀬十萠子、桜咲蓮希、塩の司厨長、ダリア220、わたなべ、蔭一郎、しんいち、akao、ひろうたあいこ、石川聡、みずがきなか、漁火いさな、大月、谷下弱弱(たにしたつよし)、蜜、水乃しずく、夜船 モモ、しろとも、Enzan_Subaru、めぐる、中村 火柱、佐倉、西脇祥貴、朝森たけ、山羊の頭、Ochiru-neon.、nes、宮坂変哲、ゆりのはなこ、Tomoko、みや、まどけい、折戸みおこ、リンネリンク、クイスケ、海馬、成瀬悠、かっぱ太郎、ベッキー、月波与生
◆ 川柳・俳句
人生に埴輪がなくてどうするの 海馬
営業に言ってきかせる赤と黒 海馬
隙間からずっとサロメの目が見える クイスケ
結婚を焼酎梅割りが溶かす クイスケ
隕石に肉片を貼る仕事です 成瀬悠
群れない鳩の吐息くずれる 牛田悠貴
働いても職安 わたなべ
カーテンは弥勒の顎をなでていて 蔭一郎
眠くって手袋に手を置き去りに 蔭一郎
転売の夜を買う中島みゆき 西脇祥貴
スケジュール作り置きして女正月 片羽雲雀
滑舌をゆっくり溶かすマグカップ 石川聡
湯豆腐のいのちのはてをふうふうす 石川聡
茶の花や自称群れない男ども しまねこくん
ババ抜きで最後に残る受験票 しまねこくん
ちゃん付けで駄菓子売る向田邦子 大月
一ミリの誤差でけずったすすり泣き 汐田大輝
両耳が無駄に明るい美少年 汐田大輝
思春期のV感覚を掘りすすむ 汐田大輝
信ずるに足らないものを入れる靴 しんいち
金曜の夜間金庫へ身を投げる しんいち
ドーナツかくせるかくせる咀嚼する 輪井ゆう
酒のない水彩の絵にあいさつを nes
*
永遠はこの美しき地球かな 季川詩音
牙のある冷凍サンマ 西沢葉火
つり革が父の亡霊ハムレット 五月雨まいまい
懐かしの坊主めくりで姫に逢う 涼閑
サーカスのテントを囲う冬銀河 星野響
背を向けて眠れば凍る夜の窓 川瀬十萠子
未だ少し模索しているカレンダー 塩の司厨長
大根も過去も白いまま咥える ダリア220
風邪ひきが平気平気と熱を出す/赤尾
手袋のかたわれ連れて逃げんさい ひろうたあいこ
たんぽぽの綿毛反乱雪が降る しろとも
鍛錬は頭蓋を裂いて映しだす 中村 火柱
もういらんなんもいらんとフルムーン 山羊の頭
猥褻に溶けたる氷柱地を穿つ 宮坂変哲
二十歳とはまぶしかりけりみづの色 ゆりのはなこ
鴨来るや池の掃除で飯を喰う まどけい
*
指切りの指はちくわになりました 月波与生
◆ 短歌
エントリーシートにスキル書けないが普通免許はもっております 水の眠り
何だかな言いかけたけど言わないで言葉探して足す引く掛ける めぐる
寝つけない夜は誰にもあるものよ夜空の星は哀しさの数 佐倉
上手いことなんてひとつも言えなくて天気と気圧に責任転嫁 Enzan_Subaru
*
予定外事項にメンタル乱されて今夜は薬のお世話かな アリタ別館
指先に透明なジェル反射する部屋の明かりで元気を纏う 何となく短歌
ピアノの黒鍵を投げる警部に白鍵を投げて応戦している 人見佐一
ざわざわと気持ちさわだちおちつかぬ試験をうけるわけではないが/笛地静恵
テーブルで独りで食べる夜ごはん涙の味しかせず母想う みずがきなか
「化け物」と貶して。じゃなきゃわたし、人間になれなかった人間だ 漁火いさな
夜だから暗い、こわいよ、さみしいよ寝ててもいいの 君に会いたい 水乃しずく
生きていたいだから考え続けるの効かない薬を飲み続けるの Enzan_Subaru
言ったってどうせ分かってくれないと一人闇夜に向かって叫ぶ 朝森たけ
君が呼吸した化学種が拡散しいつか傍にくるだけでしあわせ。 Ochiru-neon.
住んでいる国に馴染めば馴染むほど 祖国の良さが際立って 冬 Tomoko
うららかな日の当たる場所わたしたち今日出会ったの二度目の最初 みや
ログアウトしたフォロワーを眺めてる冷たくなった頬撫でるように 折戸みおこ
薄氷の上で踊るような日々にもう疲れたのミシリと割れたら冷たい水底の泥になりたい リンネリンク
◆ 詩・短文
何もせず、何も語らず、そっとしておくのが一番(桜咲蓮希)
在りし日に想ひ馳せたる
彼のひとの今を案ずる
合わす手のなか (蜜)
跳んだ羊の数が占う
荒れる頬 魚座の色と空模様(夜船 モモ)
何かに挑戦すると笑われることもある。最後に笑うのは挑戦した人であって欲しい。(季川詩音)
◆ 作品評から
思春期のV感覚を掘りすすむ 汐田大輝
~この思春期は自慰を知り童貞を喪失するまでか。「の」は主格の助詞。「思春期が」と等しい。性欲はある。興味関心は強い。しかし、実際に見たことはない。妄想しつつ、夜ごと自身のセンサーで、ひたすら掘り進む。「掘る」の語句が正鵠を射る。(笛地静恵)
何かに挑戦すると笑われることもある。最後に笑うのは挑戦した人であって欲しい。(季川詩音)
~共感しかない、最後に笑いたいです(かっぱ太郎)
~やってみる(ベッキー)
初夢の茄子を昼まで抱いたまま 海馬
~初夢に出ると縁起がいい〈一富士二鷹三茄子〉である。この夢を見たくて前夜抱いて寝たのだろう。現実的な選択ともいえる。番傘に載ってもおかしくない川柳だが今の番傘にはこういう句は載っていない。(月波与生)
おおむね天国は中耳炎 クイス
~しらんけど、と続きそうであるが見てきた人間が誰もいないのだからそれでいい。「おおむね」のざっくり感に現実味を感じる。(月波与生)
人工の雪でいいから人工のダイヤモンドを僕にください 胡椒
~「人工の」の繰り返しを読んでいて小椋佳の「私の中の私達」という歌を思い出した。「僕にください」と陽への転調が感じられる。(月波与生)
眦の白き凝視をハインリヒ 笛地静
~ヒットラーとは言わずに「ハインリヒ」。今回イメージ写真をモノクロにしたのはこの句の影響かも。「眦」の漢字に狂気を感じさせる。(月波与生)
エントリーシートにスキル書けないが普通免許はもっております 水の眠り
~履歴書の免許・資格の空白にさざなみの音音たててかく(蔭一郎)
カーテンは弥勒の顎をなでていて 蔭一郎
~カーテンのひだを観想するうちに、ひだの波打ちが弥勒の顎をなでている発想へ飛躍するの凄いですね。上田五千石の「眼前直覚論」を想起しました。~俳句は「いま」「ここ」「われ」の詩であり、時空の一期一会の交わりの一点において一句が成るとする「眼前直覚」論~ 正確には同じではないでしょうけど。 掲句は俳句でなく現代川柳で読んでいますが、モノ(カーテン)と脳の認知機能による直感的な映像(イメージ)の定着。その一期一会の交わりの点が「眼前直覚」的ということになるか?(石川聡)
この星はひとりぼっちの星だから群れでいたってひとりなんだよ 佐
~手塚治虫に月に残された永遠に死なない男の話があったけど、ひとりぼっち=不死、という感覚がある。我々は不死ではないから、まあその辺は少しだけ気楽。(月波与生)
踏切や桃の匂いの印度象 岡村知
~印度象、なのだ。印象度でもいい句なのにさらに捩じる。無観客試合でみるファインプレーのような作品。(月波与生)